【SS】ルパパト「代替不可」
こんばんは、先日LINEでカタギの友人に「ありがチュ」と送りそうになったニッケルです。JKか。
ちょっと煮詰まってるので息抜き。年度末ってしんどい。
圭一郎が好きすぎてどうにかしてやりたいのですが、今のところ動けないので、関係性が好きなルパン赤青で取り急ぎアレしました。今後やるかどうかもわからないので、本気で始められている方は怒らないでいただければ幸いです。
うう、怪盗側の名前が全員変換めんどくさい……一発で出る圭一郎いいよ圭一郎。
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失ったものは、替えがきかない。
だからなにを犠牲にしても取り戻したいと願う。
代替品はいらない……それは三人共通の思いだった。
夜遅く、魁利が部屋を訪ねてきた。
「なにか用か」
予想はついているが、透真はあえて尋ねる。
「べーつに。まだ眠くなんねえし。自分とこでやることもねえし」
「俺の部屋にもないだろう」
「ま、そうだけどね」
開いたドアの前に立ちはだかる透真の脇をすり抜け、魁利は勝手に部屋へ入ってくる。透真も仕方なくドアを閉め、机の前に戻った。
「勉強熱心だねえ」
魁利が覗き込むのは、レシピノート。することがないのはこちらも同じで、有名店のメニューを研究したりレシピを考えたりするのが日課のようになっていた。もともと、恋人を喜ばせようと始めた料理だが、今では趣味を超えている。
「おまえもひとつくらい覚えてくれたら、楽になるんだがな」
「いやいや、全部透真が作ったほうが早いっしょ」
無責任に笑い、彼は透真のベッドに寝転がった。
「おい……」
文句を言おうとすると、無視するように壁のほうを向いてしまう。
こちらの苦情もすでに形式的になっている。透真はため息ひとつで気持ちを切り替え、ノートに向かった。放っておけば退屈になって出ていくこともあるが、今日はきっとこのまま居座るだろう。
はじめはわけがわからず、煩わしいと思うこともあった。だが何度か繰り返されるうち、しだいにその心境を理解できるようになってきた。
二人は広くもない部屋の中で相手に背を向け、それぞれの時間を過ごす。独りでいるのと変わらないようだが、常に他人の気配を感じている。
恋人とこんな風に過ごしたことはなかった。互いに無視し合うことなどないし、彼女が視界の中にいればそれだけで満ち足りた気分になったから。
魁利が失ったのは実の兄。透真よりは年上だろうか。どんな人物か聞いたことはないが、兄弟仲はあまりよくなかったらしい。少なくとも魁利のほうは、兄を避けていたようだ。こうして同じ部屋で過ごす機会や、軽口さえもなかったのかもしれない。
一時間ほど経っただろうか。そろそろやすもうかと思ったが、ベッドは魁利に奪われている。彼は壁を向いたまま微動だにしない。
「……魁利」
ベッドに近づいて真上から声をかけるが、返事はない。眠っているように見えても、そうでないのはわかっている。
「魁利」
顔を隠す、やわらかな髪をかき上げた。目は閉じているが、口元はかすかに笑っている。往生際が悪い相手の、首筋に手をすべらせる。くすぐったさに肩をすくめるのはこらえているようだ。シャツの襟元から覗く鎖骨をゆっくりなぞり、身をかがめた。
「いつまで寝たふりだ」
囁きかけた耳に、軽く歯を立てる。魁利の体が痙攣するように震え、彼はついに息を吐き出して降参を示した。
「耳はやめろよ……」
寝返りを打って仰向けになり、こちらをまっすぐ見上げた魁利は、迷わず腕を伸ばして透真の頭を抱き寄せる。シャツの胸元に顔をうずめ、鼻や頬をこすりつけてくるのは、媚びているようにも甘えているようにも感じられる。
「ここで寝よっかな」
「まず俺に聞け」
透真の言葉はスルーして、魁利は透真を自分のほうへ引き倒す。
「戻んのめんどくせえし」
いつもそんな適当な口実で、ここに居座ろうとする。独りでいたくないと口にできないから、軽薄な笑みと言葉で取り繕って。
魁利が欲しいのは実の兄だ。本人を前にするとつい強がってしまうが、きちんと向き合って話をしたいと願っている。こんなふうに相手を意識せず過ごしたり、わかりやすく甘えてみたり、そんなことができる相手ではない。
「嫌だと言っても聞かないだろう」
「まーね」
魁利は身を起こし、透真をベッドに押しつけ馬乗りになった。挑発的な表情を見上げながら、自分も彼と変わらないのだと再認識する。
透真が求めるのは婚約者だ。ひどく狭視野だった自分に新しい世界を見せてくれた。彼女を守りたい、ともに生きていきたい。こうして皮肉めいたやりとりを交わし、一時の寂しさや虚しさを埋めるためだけに肌を重ねる相手ではない。
「あまり無茶はするなよ。明日も早いんだ」
「そいつはどうかな」
自らの紅い唇をぺろりと舐めた魁利は、透真の唇に指を押し当ててきた。
兄弟でも、恋人でもない。
最も大切な相手の、代替品は存在しない。
だから、この関係は……
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圭一郎「さびしいのか! ならば俺が受け止めてやる!(両腕を広げて)」
魁利「えっ……いやべつに、間に合ってます……」
透真「せっかくだから甘えさせてもらえ、ついでにVSビークル取り返してこい」
魁利「安定の不穏さ!」
正攻法しか知らない男と、正攻法に引いちゃう男。あと本音がだだ洩れる男。