【SS】カウントダウン1

オリジナルのほうでは前倒し入稿する癖がついてるんですけど、だから余裕ってわけではなくイベント直前まで工作とか加工とかしてるんですよね……今回とくにすることがなくてすごいそわそわしてる。

ちょっとテンションおかしくなりすぎて、カウントダウン始めてしまいました。
イベントまでっていうか、ビルド最終回までっていうか。

今日はルパパトSS。
明日はビルドのイラストを出す予定。
で、土曜日まで4日間ピクブラに投稿していきたいと思います。

しかしなぜか「頒布前の本の後日譚」という、販促になるのか微妙なSSを書いてしまいました。ネタバレというほどの内容でもないのでお気軽にどうぞ。

カウントダウン用に描いてもらった魁利が攻めっぽくていいです(※ニッカリズムでは基本かわいいほうが攻めです)。あと帽子かわゆい。

いちおうこっちにも出しときますね。


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そのカジュアルフレンチレストランは、今日も臨時休業だった。
客がドアの前まで来て帰っていく影を店の中から眺めながら、魁利はぬるい缶コーヒーを飲む。
「ちょっと、魁利も手伝ってよ」
厨房から初美花が声を上げたが、腰を上げる気にはなれない。
「おまえが散らかしたんだから、おまえが片づけろよ」
「そうだけど! 魁利だってハンパに手出したじゃない!」
焦がした鍋を力まかせに洗っていた初美花は苛立たしげに息をついて、それから手を止めた。天井を見上げたのは、二階にいる人間のことを思ってだろう。
「やっぱりあたしの風邪うつっちゃったんだよね……」
先日まで高熱を出して寝込んでいた彼女は、今はすっかり元気そのものだ。しかし入れ替わりに透真が倒れた。まちがいなく初美花の風邪が伝染したのだが、わざわざ落ち込んでいる人間に追い打ちをかけることもない。
「いや、オレ平気だし」
元気アピールをしてみせるが、初美花は呆れ顔で肩をすくめただけだった。
「魁利は風邪とかひかないタイプじゃん」
「どんなタイプだよ」
「ほらあ、ナントカは風邪ひかないって……」
「ナントカってなんだよ!」
魁利だって初美花の部屋に出入りしていたが、今のところなんともない。店の臨時休業がつづいて暇なだけだ。だから、透真が軟弱なだけだと思っている。
「もぉ、透真が元気だったらおかゆなんかすぐ作ってくれるのに!」
「透真元気だったらおかゆいらねえだろ」
そして透真が元気だったら、初美花は今こうして鍋の焦げと格闘してはいない。
料理などろくにできないのにお粥を作るなどと言い出して料理器具をひっくり返し、野菜を切ろうとして自分の指を切ったり、鍋を焦がしたりと大騒ぎの末、結局まともな食べ物は作れなかった。
最終的に魁利がコンビニでレトルトのお粥を買ってきて透真の食事問題は解決したが、初美花の後かたづけはまだ終わっていない。
「オレ、様子見てくるわ」
このまま眺めていてもおもしろくなさそうだと思い、むくれる彼女を置いて二階に向かう。
透真の部屋は魁利の部屋でもあるのだが、さすがに病人がいるところで暇をつぶすわけにもいかない。だから少し覗いてから外にでも出るつもりだった。
いつもならきっちり布団をかぶって寝ている透真が、今は熱のせいで寝苦しいのか、掛け布団が半分ほどめくれて肩が出ている。布団の上に腕が投げ出されているのもめずらしい。
脈をはかれるわけではないが、晒された白い手首になんとなく触れる。
指先が動いたかと思うと、魁利の手を掴んだ。いつもより熱い。
「起きてた?」
透真は目を閉じたまま、眉間に皺を寄せて呻く。
「初美花に……厨房のものは触るなと言っておけ……」
「……おう」
もう手遅れだと思いながらもそう答え、ベッドの端に腰かける。騒ぎの様子は聞こえていたのだろう。ちらりとベッドサイドを見ると、レトルトを器に移しただけのお粥はほぼ空になっていた。食欲がないわけではなさそうだ。
「なんかほしいもんある? えっと……ゼリーとかプリンとか?」
「……静かに寝ていられる時間がほしい……」
「おっけ」
これは初美花に念押ししておいたほうがよさそうだと思い、一方で気にしないで寝てしまえばいいのにとも思う。
しかし、彼は掴んだままの手を離そうとはしない。
「透真?」
「なんだ……」
「ほっといてほしいの、かまってほしいの、どっち?」
「……黙ってそこにいればいい」
「はあ」
なんと返事をしていいかわからず、ただきつく握りしめられた手を握り返す。
「透……」
ついいつもどおりに話しかけようとして、たった今黙っていろと言われたことを思い出し口を結んだ。
なんでおまえだけ風邪うつってんだよ、とかそんなことを言いたかっただけだ。昨日まではなんともなかったし、魁利もずっといっしょにいた。自分だけが元気なのはおかしい、というだけ。大した話ではない。
手を掴まれていてはとくにできることもなく、昨日の夜を思い出す。
夕食も入浴も終えて、それでもまだ店に明かりがついていたので下りていくと、透真がカウンターでワインを飲んでいた。
「また一人で飲んでる」
彼は「テイスティングだ」と言うが、そのあたりの区別は魁利にはどうでもよかった。以前勝手にワインセラーのボトルに手をつけて一騒動起こしてから、できるかぎり控えてはいるのだけれど。初美花もいないから問題はないだろう。
「一口!」
「少しは懲りろ」
呆れたように笑う顔は、それほど不機嫌ではなさそうだった。口をとがらせてみせながら、冷蔵庫を開けて炭酸水の瓶を取り出す。
「いいじゃんよ……」
カウンターをぐるりとまわって、座っている透真の前に立つ。
「じゃあ、ひと舐め」
愉快そうに見上げてくる顔を持ち上げ、唇を重ねた。ゆっくりと瞬きをする彼と目が合い、長い睫毛がこちらの肌をかすめたような気になる。そのまま、彼の舌に残っている味を追う。かすかだが、今手にしているグラスの中身であろう味がした。
「甘……」
彼の唇を舐めながら、そう呟いたとき。
「あ、お酒!」
不意に初美花の声が背後から聞こえ、ぎくりとして身を起こす。
起きたのか、もう元気になったんだな、今の言葉からするとキスは見られてない……そんな思考が瞬時に頭を駆けめぐり、振り返るときには余裕の笑顔を作ることができた。
「透真しか飲んでねーよ」
なあ、と見返れば、透真も一瞬の動揺を大人びた微笑に隠している。その場は事なきを得て、初美花の快復を確認しながら何事もなく部屋に戻った……はずだった。
「なーんでアレでうつんなかったかなあ……」
思わず声に出してから、はっと口を押さえ病人のほうを見る。火照った顔は変わらずだったが、寝息はおだやかだった。
安心して、汗ばんだ手から自分の手をそっと引き抜いた。

厨房の掃除はなんとか終わったものの、なにも作れないことに変わりはない。二人別々のテーブルで、それぞれにコンビニ弁当を食べる。
「透真のごはんって、おいしいよね」
初美花がぽつりとそんなことを言った。なにをあたりまえのことを、とは思わなかった。初美花が寝込んでいたとき、魁利もここで同じことを感じたから。コンビニ飯がまずいなどと思ったことはなかったのに、いちおう大好きな揚げ物で揃えたのに、なにか味気ないと感じてしまう。それはきっと、しゃれたフレンチの味に慣れたなどという理由ではなくて……
「よし! もっかいおかゆ挑戦してみる!」
割り箸を握りしめて顔を上げる初美花の宣言に、ぎょっとしてカツを喉に詰まらせそうになる。
「いや、やめとけって! マジ透真キレるから、熱下がんないから!」
どうしても昨日までの恩返しがしたいという初美花に、「鶴かよ!」とつっこみながらなだめるのには料理するよりも時間がかかった。

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正直、今このネタを書いていると、おもしろい顔のおばさんが「おでこくっつけて熱計っちゃったりなんかして」って言ってくるし目の据わったおじさんがみかんゼリー持っておでこくっつけにくるしで、シリアスなテンションが保ちづらいです。