【SS】ルパパト「バスルーム」
魁利と透真。
温泉地まで行ったのに温泉に入れなかったので普通に家のお風呂に入りましたという話です(雑な説明)。
それなりにエロいことはしてますが、突っ込んでないので魁透でも透魁でも。
透真は、魁利の気持ちがわからないし深く知ろうとも思わないので、だいたいの見当をつけて勝手に納得してる。
魁利は、透真が踏み込んでこないし慰めも気遣いもしないのを知ってて、ある程度は本心をさらけ出せる。
ていう関係だと思ってます。
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【バスルーム】
「次の人、お風呂どうぞ~」
湯上がりの初美花が階上から声をかけてくる。明日の仕込みをしていた透真は、テーブル席にぼんやりと座っている魁利を促した。
「風呂かあ……あーあ、温泉入りたかったなあ……」
彼は立ち上がって伸びをしながら、気の抜けた声でそんなことを言う。
「今度さ、ノエルに連れてってもらおうぜ。メシとか超うまかったし」
「……そうだな」
任務でもなんでもない旅行にノエルが金を出すだろうかと考え、これまでの奇行からすると不可能ではないかもしれないと結論づけてはみた。
だが提案した魁利自身は少しも楽しそうではない。
想定よりもかなり早く仕事は終わり、コレクションも手に入れた。なのに持ち帰ったコレクションを、魁利は初美花に押しつけたきりほとんど見返らなかった。警察に「譲られた」ことでプライドを傷つけられたのだろうか。
「じゃーおフロお先しまーす」
もしくは、警察と行動をともにしている最中、なにかがあったのか。彼は自分が優位であるかぎり、敵にも遠慮なく近づいてはからかって楽しむ余裕を忘れない。だがその優位性が失われたとたん、敵意を剥き出しにする危うさも持っている。
結果として警察の手助けをするかたちになったことが不満なのかもしれない。ただでさえ気に入らない相手に「ノセられた」あげく「譲られた」とあっては、おもしろくないのもわからなくはない。
それでも仕事をやり遂げたことは事実だ。明日の朝には元気になっているだろうと希望込みで結論づけ、こちらも自分の仕事に戻った。
店の明かりを落とし、自室のある二階へ向かう。バスルームはまだ空いていないようだ、と思いかけ足を止める。魁利にしては長風呂だった。
「おい、まだ入ってるのか……」
急かすつもりではなかったが、ただ気になって脱衣所を覗き込み声をかけた。水音がして、浴室の戸が開く。
腕だけが出てきて手招きをするから、シャンプーでも切れたのかと思って近づいた。湯気の向こうの表情を全く見ていなかったのは誤算だったかもしれない。
濡れた手が伸びてきて透真の腕を掴むと、むりやり浴室に引きずり込む。
「魁利!?」
ぎょっとして身を引いたが、愉快そうに口をゆがめた裸の魁利は有無を言わせず、服を着たままの透真に抱きついてきた。さすがに怒鳴ろうとした瞬間、水栓がひねられ正面からシャワーを浴びせられる。
「……っ」
必死に顔を背けながら手を伸ばしてシャワーヘッドの向きを変えたが、髪も服も一瞬にしてびしょ濡れになっていた。方向の逸れたシャワーは湯を吐き出しつづけている。
「魁利!」
押しのけようと掴んだ裸の肩は濡れてすべり、しかも魁利がやけくそのように全力でしがみついてくるから、引き剥がすこともできない。彼は悪戯が成功して楽しいらしく、透真の胸元に顔を押しつけて喉の奥で笑っている。
ひたいから流れてくる水滴を手で拭い、目にかかる前髪をサイドへかき上げた。少なくとも前は見えるようになったが、状況は変わらない。
「……なにがしたいんだ」
「温泉じゃできねえこと」
そう言って魁利はやっと顔を上げた。笑ってはいるが、機嫌が悪いときの表情であることはこれまでのつき合いからわかるようになっていた。
「そんなに入りたかったのか」
「なんか損した感じすんじゃん」
中身のない会話は半ば上の空で、魁利は透真のベルトを外そうとしている。どちらにしても張りついて不愉快だったので自分で開けると、彼は迷いなく濡れた布地を剥がそうと手を突っ込んできた。
透真も負けじと裸の背を抱き寄せ、感じやすい背骨を指先でなぞってやった。狙いどおりに彼は身をよじらせて笑い出したが、反撃とばかりに透真の両手首を掴んで濡れたタイルに押しつける。
「……………」
目が合った。魁利の顔から笑みが消える。シャワーの水音がいきなり大きく聞こえる。
楽しんでなどいないとすぐにわかったが、大きな瞳はすぐまぶたの下に隠されてしまった。普段はほとんど瞬きさえせず、最後までこちらを眺めていることさえあるのに。今は拒むように目を閉じて、透真の首筋に吸い痕をつけようとしている。
手を封じられているものの、されるがままは性に合わない。頭だけを動かして彼の耳に唇で触れる。軽く歯を立ててやると、魁利は肩をすくめて手を離した。かといってこの悪ふざけを中断するつもりはないらしく、引きずり出した透真の中心を乱暴に握り込んでくる。呻きを飲み込むつもりが、触れていた魁利の耳を強く噛んでしまう。
「ぃって……」
不満げに唸った魁利の愛撫はさらに手荒になり、より攻撃的な魁利自身も押しつけられて、二人ともすぐに後戻りできない状態になる。
シャワーの音が騒々しいのをいいことに、二人は夢中になって快楽を追った。普段とちがう状況のせいなのか、単にしばらく相手に触れていなかったからなのか、堪える余裕もなくあっという間に吐精させられた。魁利のほうも透真の肌と服を白く汚して、息を切らしながら果てた。
透真は浴室の壁に背中を預け、目の前の裸体を睨みつける。
「……風呂上がりじゃだめだったのか」
「こういうのってノリとテンションだろ?」
彼は悪びれもせず、シャワーヘッドを掴んでこちらへ向けてきた。
「すぐ洗えるからちょうどいいって」
もうこれ以上濡れも汚れもしない、とあきらめの境地で、重くなったシャツを肌から引き剥がす。露わになった肌に魁利がおもしろがってかすぐシャワーを浴びせてくるので、拭うこともできず服の水気を絞ることも断念した。
「洗ってやろうか?」
「……いい」
「おっけーまかせて」
返事を聞いていないのか、魁利はスポンジを手にして迫ってくる。こうなると浴室から逃げ出そうとするのは無意味だ。
今度はすべて脱がされて二人で泡だらけになり、そしてまた頭からずぶ濡れになり、何度か悪戯をしかけ合い、最後には疲れた透真が湯船に避難するかたちでいちおうの決着がついた。
満足したらしい魁利は出しっぱなしのシャワーをやっと止め、多少おぼつかない足取りで浴室の戸を開ける。
「のぼせて倒れるならせめて服着たあとにしろ」
「ん……」
生返事をよこした彼は、出ていくのかいかないのか、戸口の前に立ち尽くしている。透真には背を向けているからその表情はわからない。ほんとうにこの場で倒れられたら困ると思いながら、それとなく様子を窺う。
「オレ、最低だわ……」
ふと洩れた低い呟きが耳に入った。
彼が自虐を口にすることはめったにない。当然、この悪ふざけの反省であるはずがない。帰ってきてからずっとつづいている苛立ちは、警察に出し抜かれたからではないのか……?
だが問いただしたところで素直に答えは返ってこないだろう。
「……まったくだ」
浴槽の縁に寄りかかってしみじみ吐き出すと、彼は肩越しに振り向いてのぼせ気味の赤い顔で笑ってみせる。
「ひっでぇな、フォローしろよ」
こんなに騒いで遊んでも、魁利の機嫌は直っていない。
明日の朝には調子を取り戻していればいいが、と透真は湯に身を沈めながら思った。
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ジュレのお風呂はフランス製のアンティークな足付きバスタブなのですが、三人は気にせず日本式で入ってます。
生活費はコグレさん持ちなので、魁利と初美花は水光熱費とかいっさい気にしたことないです。透真は収支の把握はしてますがもう他人の金と割り切りました。
ノエルのこと言えない、というかノエルが仕事以外では意外に倹約してたらどうしよう。Tポイント貯めてたりとか近所の商店街の特売日押さえてたりとか。冷蔵庫の開け閉めにうるさかったりとか。
ノエル好きすぎか私。