【SS】魁利と透真【R18】
ダブルが放映開始10周年だそうなので、当時衝動的に書いた翔太郎と竜のリバエロ小説を出そうかなと思いましたが(ちゃんと2話編成で、事件の依頼から解決まで、アバン・前半・後半のパート構成になってるやつ)
この話と展開が完全にかぶってたので、自分の底の浅さを晒すだけだと気づいて思いとどまりました。あと、昔はちゃんとエロ書いてた(今書いてない)ことがバレる。
悪いやつらの不思議な力が使えるのは、特撮の醍醐味だよね!?(必死)
これからも書くよ私は!!(必死)
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新刊も無事に届いたので、ボツネタ救済。
ギャングラーのせいで透真が魁利を殺そうとしたりエロエロになったりする話です(言い方)。
前に本にしようと思って完成せず、今度の再録本にはページ数オーバーで入らず、ここで供養します。
まとまらなかっただけあって、ふわっとした話ですがお気になさらず。エロも首をひねりながら描いたので、細部はお気になさらず。勢いでガッといってください。勢いで。
関係ないんですが、魁透本からそのままJ庭の原稿に入って、なんか地続きな感じするなあと思っていたら「チャラくてサボり癖のある年下」と「無口で勤勉な年上」っていう組み合わせが魁利&透真とかぶってた。身長差も同じくらい。そっちはエロじゃなくてよかった……(魁透コピペするとこだった)
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たった今コーヒーを出したばかりなのに、あわただしく出ていく三人の客。
国際警察のメンバーを見送ったジュレの店員たちは、エプロンを放り投げて店じまいしようとした。そこへ別の制服が現れる。
「ノエルさん!」
「いっしょに出動したんじゃねえのかよ」
「今回は、きみたちといっしょに行く」
ノエルは回収するコレクションの写真を取り出した。
「『Aaignée du soir, espoir(夜の蜘蛛は希望)』……これ自体は、つがいを見つけ出すだけの能力しかない」
初美花が首をかしげる。
「つがい?」
「オスとメスの一対、まあカップルのことだ」
透真の補足にうなずき、ノエルは厳しい顔で三人を見まわした。
「問題はギャングラー自身の能力だ。女性ばかりを狙ってなんらかの神経毒を打ち、凶暴化させている。彼女たちは他人ではなく必ずパートナーを襲っていて、かなり深刻な傷害事件も起きているんだ」
「そのためにわざわざカップル探してんのか」
趣味悪ぃな、と魁利が肩をすくめた。
「そう、だから念のため、初美花ちゃんは毒を打たれないよう注意して」
「でもでも、あたしパートナーなんていないよ」
「無差別に襲ってくるかもしんねえじゃん。そっちのほうが怖ぇよ」
魁利が初美花を小突く横で、透真はノエルに尋ねる。
「その毒を男が受けたら、どうなる?」
まだ報告事例はない、と彼は沈痛な面持ちで答えた。
「うえぇ、キモ……」
思わず呻く初美花がどんな表情かは、仮面をしていてもわかる。蜘蛛と蟷螂の合いの子とでもいえそうな外見のギャングラーは、たしかにパトレン3号とルパンイエローを執拗に攻撃してきた。
「女ばっか狙うとか、くっそダセえな!」
魁利が挑発するように罵るが、たやすく乗ってくる相手ではなさそうだ。警察の動きを利用してどうにか……と透真が考えていたとき、ノエルが叫んだ。
「危ない……」
不安定な姿勢で倒れた初美花に対して、敵の毒針が向けられる。考えるより先に、彼女の手前にいた透真は飛び出していた。
「ぐっ……」
真横から左肩に攻撃を受け、鋭い痛みを感じた。だが痛みは一瞬で、皮膚や肉を抉られた感覚はない。
すかさず体を反らして右腕で相手に銃弾を撃ち込む。しかし連射はできなかった。腕から……体中から力が抜け、ついには銃を取り落とす。
「ブルー!」
悲鳴にも近い初美花の声が遠のくのを感じながら、透真はその場に崩れるように倒れ込んだ。
駆け寄ってきたノエルは手早く脈を確認すると、魁利と初美花に指示を出す。
「レッドくんは、彼を連れて帰って。イエローくんは悪いけど残ってくれないか。今のままだと3号が集中的に攻撃される。攻撃を分散させて、警察側で取り押さえるよ」
「こっちは任せとけ。頼むぜイエロー」
「う、うん!」
それが最善の策かはだれにもわからないが、透真を放置するわけにはいかないというノエルの言い分はもっともだった。透真を担ぎ上げる魁利に、ノエルは硬い声でつけ加える。
「気をつけるんだよ。ほんとうに女性にしか効かない毒なのか、まだわからないからね」
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意識のない人間は重たい。自分も変身を解いてしまったから余計にそう感じる。ぶつぶつと悪態をつきながら、透真を背負ってなんとか自室までたどりついた。
部屋に入って彼を下ろそうとしたところで、頭の後ろから呻きが聞こえた。
「ぅ……」
「気がついたか……」
背中にかかる重みが軽くなった、と思った瞬間、力なく肩にかかっていた腕が、いきなり魁利の首に絡みつく。
「透真!?」
どういうつもりかと叫ぶ暇もない。手加減などなしに背後の男は仲間の首を容赦なく締め上げる。
ふりほどけないと早々に悟った魁利は、透真の腹に肘鉄を食らわせ、わずかに力がゆるんだところで長身を投げ飛ばした。
「なんだってんだ……」
言いながら思い出した。毒を受けた女性はパートナーを襲うと……。
「男女もカップルも関係ねえじゃん」
床の上で透真が呻きながら身を起こす。だがこちらを向いた表情は、予想とは裏腹に困惑を見せていた。
「魁利……」
信じられないほど弱々しく囁く声で、心までは操られていないと知ることができた。
「おい、だいじょうぶかよ」
「いや……」
立ち上がりざま、彼は銃を抜く。
すでに抜いていた魁利が先に銃口を向けたため、二人は互いに牽制することができた。魁利の頭に銃を突きつけた透真は、苦しげに顔を歪める。やはり、意識は正常なままのようだ。
「体だけ操られてんのか?」
「……わからない」
透真は自分の意志に反する手をむりやり下ろし、銃を部屋の隅へ投げ捨てる。
「おまえはさっさと戻れ……」
魁利から距離を取ろうとした透真は、しかしさらに表情を険しくして顔を上げた。
「……いや、俺を縛ってから行け」
「あ?」
眉を寄せる魁利に、透真はワイヤーを仕込んだ自分のバックルを差し出す。これで拘束しろというのだ。だが、傷を負っている人間にそこまでする必要はあるだろうか。迷う魁利に対して、透真は表情も変えず告げた。
「たぶん、俺はおまえを追いかけて殺そうとする」
「殺……」
物騒な単語に突き飛ばされるように、魁利は彼のバックルを受け取った。
ベッドのヘッドボードに両腕をくくりつけられた姿は磔のようだったが、だが怖じ気づいてはこちらの命も危ない。
魁利に手を出せなくなった透真は、衝動を身の内に抱え込むように、苦しげに喘いでいた。
「脱がしときゃよかったか……」
そう呟きながら、今さらシャツのボタンをはずしてスカーフを抜いてやる。これで少しは楽になるだろう……。
「え!?」
あらわになった首元に見慣れないものが見え、ぎょっとして思わず襟を大きく広げていた。
「なんだこれ……」
左肩を中心に、黒い模様が同心円状に広がっていた。首や胸まで伸びるそれは、蜘蛛の巣にも似て気味が悪い。透真も自分の肌を見下ろし、表情を強ばらせた。
「痛むか?」
「いや、なにも……」
だが先ほど撃たれた場所と一致する。毒の浸食とこの模様の広がりに関係があるかはわからないが、どう考えても楽観できる状況ではない。
腕を縛りつけられたまま息苦しそうに胸を上下させる透真が、荒い息のあいだから囁いた。
「水をくれ……」
「わかった、待ってろ」
急いで階下の厨房に駆け下り、水差しとグラスを持って戻る。
「おい水……」
グラスに水を注ぎながら渡そうとして、相手が手を出すどころか起きあがれもしないと気づいた。そうしたのは自分だ。
こちらを見上げた透真は、こんな状況なのになぜか自分の唇をわざとらしく舐めてみせる。
「飲ませろ」
「ああもう、めんどくせえ!」
頭から浴びせてやりたい気分になったが、そうもいかない。仕方なく、彼に直接飲ませるつもりだった水を自分の口に含み、透真の口元へ持っていった。
「ん……」
それなりにこぼれはしたけれど、冷たくもないだろう水が透真の喉へと流れていく。
さらに水を求めてか、相手の舌が入り込んできた。すっかり馴染んだキスの感覚に、思わず応えて深く追ってしまう。
つかの間、この状況を忘れて浸りかけた瞬間。
尖った歯の先が、舌に食い込むのを感じた。
「!」
すんでのところで顔を引き剥がしたと同時に、相手の歯が鳴る。
手から放り出されたグラスが床に叩きつけられ、粉々になった音が聞こえたが、それどころではない。
「今……舌噛もうとしたよな?」
口元を拭いながら見下ろすと、透真は愕然とした表情でこちらを見つめた。
「すまん……」
露骨に挑発するような態度から、また元に戻っている。水がほしいという要求さえも作戦か。魁利を誘い込み、舌を噛み切ろうと……。
「もういい、ここにいると危険だ。向こうに合流しろ」
「わかってるよ」
ベッドから下りようとして、ベルトもゆるめてやろうかと彼の腰に目をやり、ぎょっとした。
「なに、おまえ……」
スラックスの前がきつそうに張っている。まさか、この状況で欲情しているとは予想もしていなくて、暫し絶句した。魁利の視線に気づいた透真も気まずいのか、やけくそのように怒鳴る。
「うるさい、早く行け!」
だが、今の殺意がこもった口づけでそうなったとは思えない。考えられるのは毒の作用だ。
「くっそ……そんなん聞いてねえぞ」
やけくそで髪をかきまわし、タキシードの裾を払って透真の腹に馬乗りになった。
引きつった顔でこちらを見上げる彼を眺める。魁利の命を狙っているのは確かだが、それだけではなさそうだ。だとしたら、そこに解決策があるかもしれない。
「あのさ……なんでオレを殺したいの? すげえ憎いとか?」
透真は苦しげに首を横に振る。
「逆だ……おまえを手に入れるために……」
「は?」
言葉の意味を考えてみる。被害者は、パートナーを襲うと言っていた。関係性は人それぞれだろうが、普通に考えて憎い相手ではない。「逆」だ。
「オレが、ほしいの?」
透真の表情から、険しさが消えた気がした。
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とすれば、彼の欲望を昇華させれば、あるいは……そう考えた魁利は、シーツに手をついて透真を覗き込んでみる。焦れているときの顔だ。
「おとなしくしてんなら、シてやっても……」
前触れもなく、背中に強い衝撃が走った。
「ぐ……っ」
ひざで背中を蹴り上げられ、腕の支えも間に合わず彼のほうへ倒れ込む。正面から抱きつく形になった魁利の首筋に、透真の歯が当たる。
「おい!」
今度も間一髪で身を起こし、ベッドから転がり落ちるようにして逃れる。
「なにすんだよ!」
噛みつかれていたかもしれない首を押さえ、思わず叫ぶ。怒っても仕方がないことだとわかってはいても、さすがに肝が冷えた。
やはりこのままここにいるのは危険だ。彼を置いていくしか……。
「抱いて、くれないのか」
「……っ!」
毒が回りつつあると悟る。もう透真自身の自制心や理性には期待できない。今の透真は、魁利を「手に入れる」ことしか頭にないようだ。
このまま放っておけば、収まるものだろうか。少なくとも毒が勝手に引くことはない。
今ここから逃げ出して自分の命を確保したとしても、対処が間に合わなければ透真を失うかもしれない。ギャングラーだけではない、面倒な国際警察や信用しきれないノエルまで相手にしながら、初美花と二人でどこまでやれるだろうか。
……まだだ。まだ、透真を手放すわけにはいかない。
「……オッケー」
上着を脱ぎ捨て、コンドームを取り出して見せつける。
「オレ殺したら、気持ちよくなれねえぜ」
シャツのボタンをすべて外して広げると、さっきよりも蜘蛛の巣が大きくなっていた。
「やべえな……」
思わずその痣に触れると、彼は身をよじらせて切ない喘ぎを洩らした。汗ばんだ肌に手をすべらせるだけで、たまらないといった風情の声を上げる。いつもなら、最後まで声を出すまいと意地を張っているのに。
「こんなんで、感じてんのかよ……」
揶揄するつもりはなかったが、透真は濡れた瞳でこちらを睨みつけてくる。ぞっとするほどに艶めいた目つきが罠だとしたら、もう彼の術中に落ちているのかもしれない。
「あんま誘うなって」
自分も首元をゆるめて、彼の脚の上に乗りかかった。自重では不安だが、ひとまず押さえつけるしかない。
腕は封じているものの、脚は危険だ。顔に近づくのも危ない。そう思いながら、彼のベルトを外し前を開ける。まだ触れてさえいないのに、透真の欲望は真上を向いていた。
魁利は緊張に乾いた唇を舐めながら、その先端に口づける。
「んぁっ……」
抑えもしない嬌声が、透真の口からこぼれ出す。手袋をしたままの手でさすり上げながら、屹立をくわえ込んだ。
魁利は急き立てられるように透真のそれを口と手で愛撫する。冗談でもこんなことをしようとすると、透真はひどく嫌がったし、魁利もされるならともかく実際にしたいとは思っていなかった。
だが、今はこれで時間稼ぎをするしかない。今の透真と無防備にセックスはできない。どこかで隙ができてしまう。必死に考えるが、初めて聞く淫らな呻き声がずっと耳を犯していて、慣れない動作にも手こずっていて、たやすく意識を持っていかれそうになる。
いいかげん咽せそうになって、それが質量を増した瞬間、はっと口を離す。
「あぁ、魁……っ!」
とっさに顔を背けたが、熱いものが顔に浴びせられた。
「やってらんねえ……」
髪までかかったそれを両手の手袋で乱暴に拭い、口の中に残った味を吐き捨て、それから汚れた手袋をベッドの下に放り出した。こちらも少しずつ装備を剥がされている気分だ。
「魁利……」
背筋が凍るとはこういう感覚をいうのだろう。欲に支配された透真と目を合わせるだけで、心臓を掴まれた気分になる。
「オレにヤられたいんだろ? だったらおとなしくしてろよ」
普段の彼なら嫌がるであろうセリフをわざと口にして、見せつけるように自分のベルトを外す。こちらもきつくなってきたところだ。透真のほうは、一時的にでも弛緩してうまく力が入らないようだった。
日ごろ肌を重ねている相手の痴態を前にして、全く無関心でいられるほど魁利は達観していない。いっそ萎えてくれていればよかったものを、と自分に対して忌々しく思う。
コンドームを手にすると、透真は首を振った。
「直接、中に……」
あまりの衝撃に、魁利は思わず彼の言葉を遮って怒鳴る。
「おま……ふっざけんなよ、いっつもゴムしなきゃ殺すって言ってんのそっちだろ!」
なぜ自分が説教しているのか。しかも今の透真になにを言っても意味がないのに。自分の体も自制が効かないほど熱くなっている今、大声を出すしか魁利にはできなかった。
「ちくしょ……どうすりゃいいんだよ、エロ透真!」
視界には常に黒い蜘蛛の巣がある。意識を向けるたびに広がっているように思えて、気が気ではない。身をよじるたびにワイヤーが腕に食い込んでいるのも目につく。
ただ、ワイヤーを外せば、透真はためらわずに攻撃を仕掛けてくるはずだ。今度は躊躇もない。本気の腕力なら、息を切らした魁利のほうが不利だろう。
腕の拘束は外せない。顔に近づくのもまだ危ない。そう考えながら、透真に自分自身を押しつけて、体重をあずけた。
「魁利……」
そんな風に媚びた口調で名を呼ぶ透真にも、それに反応してしまっている自分の体にも腹が立つ。
「甘えんの、そんなに巧かったかよ」
首筋に口づけてもいつもなら吐息を洩らす程度の彼が、今だけは鼻にかかった喘ぎを上げる。気味が悪い蜘蛛の巣の合間に吸い痕をつけながら、片脚を抱え上げ、もう片脚は自分の足で押さえつけた。これなら、体制的には自分のほうが有利になるはずだ。さっきのように強い蹴りも繰り出せなくなっている彼なら、なんとかなる。
「後ろ向きに縛ってたら、バックからヤれたのにな……」
自分を見失わないためにそんな軽口を叩いて、猛った自身を押し込んだ。透真の叫びが狭い部屋に響く。
そこからは、二人とも理性などないようなものだった。髪を振り乱し、汗を散らして、獣じみた声を上げて。
「やっ……あっ、魁利っ、魁利……」
荒々しく揺さぶられるたびに透真は身をくねらせ、ただ同時に腕を強く引くのだった。腕がちぎれてもかまわないというように。魁利は不安のあまり声をかけようとして顔を上げ、目が合った瞬間に後悔した。
これほど乱れても、透真はまだ魁利の命をあきらめてはいない。
「くそっ、殺すなら殺せよっ……」
ベッドが軋むほどめちゃくちゃに突き上げて、彼に力の限り喚かせる。快感で息ができないほどなのに、少しも楽しくはない。こんなセックスがしたいわけではない。自分が透真に求めているのは……。
「ぁああ……っ!!」
聞いたこともない悲鳴とともに、透真が絶頂を迎えた。強い締めつけに、魁利も半ば強制的に射精させられる。
相手の全身から力が抜けた。
「とお、ま……?」
返事はない。目を閉じた顔におそるおそる手を近づけてみたが、罠でも芝居でもなく、すでに意識がないようだ。ワイヤーを外すと人形のようにシーツへ両腕が投げ出され、わずかにも動く気配はない。
魁利は暫し、気を失った透真を呆然と見つめていた。
携帯端末が着信を告げる。
「……………」
無言で出ると、ノエルが憎らしいほど涼しい声で仕事を終わらせたと告げてきた。コレクションは無事に回収し、ギャングラーは国際警察が片づけたと。
「こっちも……問題なしだ……」
ふと透真の肌を見やると、蜘蛛の巣に似た黒い痣は消え、魁利がつけたキスマークだけが点々と残っていた。
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「もう、乱暴なんだから魁利は……」
透真の両腕に残るワイヤーの痕は痛々しく、見かねた初美花が軟膏を塗ってやっている。服の上からとはいえ、ギャングラーも拘束できる強度だ。こうなることはお互い想像がついていた。
「殺されるとこだったんだぜこっちは」
「そうだ、魁利のせいじゃない。俺が頼んだことだ」
透真はあのときの狂乱など忘れたような穏やかさで、初美花に腕を差し出し手当てを受けている。
「まあ、なにか起きる前に解決してよかった」
カウンターに寄りかかっていたノエルが、にこやかにまとめた。
実際は山ほどアクシデントがあったのだが、すべて終わったことだ。初美花は当然としても、ノエルにだって告げる必要はない。錯乱した透真が一時的に暴れたため拘束した、とだけ伝えてある。
「で、なんだったんだよアレ……」
魁利の問いに、ノエルはわずかに顔を曇らせた。
「……ある種の蜘蛛は、生殖行動を終えるとメスがオスを補食する……って、知ってるかい」
「なにそれ、怖っ」
ノエルが言うには、その蜘蛛と同じ成分が、拘束された被害者から検出されたのだという。
「情の深い人ほど、愛情が強いほど、相手を殺して手に入れたいという欲求が強くなるらしい……惨い話さ。愛する人を手にかけるなんて、とてもつらかっただろうね」
不幸中の幸いといおうか、死者は出なかった。だが重傷を負った相手もいたとノエルは真剣な顔で語る。
「じゃあ、なんで透真は……」
思わず疑問を口にしかけ、怪訝そうなノエルの顔を見て言葉を飲み込む。
「……相手がいなくてラッキーだったってことだな」
ノエルから顔を背けるために透真のほうを見る。
互角に対抗できる魁利だから、理性が完全に失われる前に警告もできた。だが自分たちは「つがい」ではない。なのに、透真はなぜあそこまで執拗に攻撃してきたのか。
「まあ、そもそもメスじゃねえし……」
そう呟いて、ふと思う。
もし彼が肉体的に「受け入れる」立場でなかったら……魁利との関係がなかったとしたら、この毒は無効だったのだろうかと。今となっては確かめようもないが。
手当ての終わった透真が、初美花に礼を言って立ち上がった。
「ノエル、なにか飲むか」
「おかまいなく」
「あっ、あたしがやるよ! 透真はおとなしくしてて!」
厨房へ行きそこねた透真は、何気なくこちらを見やる。目が合うと、彼は魁利の首に手を伸ばしてきた。
「……悪かった」
「気にすんな」
その手をそっと払いのけ、魁利は透真が座っていた椅子に腰を下ろす。
殺されかけた男たちは、いったいどんな気持ちで……いや、殺そうとした女たちは、どれほど理性を残していたのだろうか。
「とても……つらかっただろうね」
深いため息とともに吐き出されたノエルの呟きは、三人のだれにも届かなかった。
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魁利はよい子なので中出しはしてません。
去年書いたやつですけど、リュウソウジャーの「関係が近しいほど遠くに飛ばされる磁力」と発想が同じですねコレ…