【SS】ビルド「目覚め」
山を越えたので仕事サボってビルド書きました(ひどい挨拶)。
スタークさんの兎龍推しがひどすぎる……
といいつつまだまだ戦マスでやっております。だってスタークさんがあんなにがんばって(兎龍推して)るのに、戦兎くんのほうがまだマスター振り切れてないんだもの。
わたし的には、スタークさんがいいって言うまでちゅーもしちゃいけない感じになってきてる、戦兎と万丈は。兎龍最大手のスタークさんに従います。
それはさておき、戦マス同志の方がいらしたら(いるのかな?)楽しんでいただければ光栄です。
って今これ書いてたら居間のテレビからマスターの声して軽くびびった……(てれとうでミニ番組持ってんだね前川さん)
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「……おーい、いつまで寝てる気だ?」
頭の上から降ってきた声に起こされて、目を開ける。
帽子とメガネ、エプロン。店を開けている時のアイコンだが……
「あれ……バイトは?」
ごろんと寝返りを打ったら背中が痛かった。それもそのはずで、戦兎は床の上でクッションを抱えて眠っていた。
彼は呆れた顔でため息をつく。
「バイトならもうとっくに終わってますー。……もう夜だぞ?」
「え、うそ」
時計を見るが、朝としか思えない。床に転がったのだって、つい2,3時間前のはずだ。計算が煮詰まって、集中力が切れたところで倒れた。ベッドは美空が使っていたから、とりあえずクッションの上に。
「美空は」
「上で晩メシ食ってるよ。おまえも食うか?」
「うん……」
時間を盗まれた気分だ、と思いながら髪をかきまわし身を起こす。なにを急ぐ身でもないが、12時間以上眠っていたというのは少し損した気がする。
「あー、体痛ぇ……」
「そんなとこで一日寝てりゃ、痛くならないほうが変だよ」
よろめいて再び倒れかける戦兎を、石動は笑いながら助け起こした。頑丈な腕に支えられるのが心地よくて、わざと倒れかかってみる。
「まだ寝ぼけてんのか? メシいらないか?」
「いる」
開けっ放しのドアからは確かにいい香りがしてきて、丸一日なにも食べていない戦兎の腹を鳴らす。
「ごっはん、ごっはん」
口ずさみながら階段を上っていくと、テーブル席で美空が普段の仏頂面を崩さず食事をしていた。
「おはよ~」
「おう」
隣のテーブルにはすでに戦兎のぶんが用意されている。だから起こしにきてくれたのだろう。
「いっただっきまーす」
「はい召し上がれ」
味噌汁、白飯、アジの開き(大根おろしつき)、卵焼き。
イタリアンテイストのカフェにはそぐわないメニューだが、戦兎は地味にこの純和食が好きだ。
三人それぞれ好きな時間に好きなものを食べるという生活の中で、きっちりした「食事」が出ることはあまりなく、とくに白いごはんとお味噌汁と……といった和食はさらにレアだった。他のメニューだと冷凍やレトルトのほうが美味いということもあるが、なぜか石動は和食では失敗しない。
「卵焼きは甘いのがいいって言ったじゃん」
ささやかなクレームに、彼はシンクで調理器具を洗いながら顔をしかめてみせた。
「仕方ないだろ、美空はしょっぱい派なんだから」
「寝てたやつにリクエスト権はないのだ」
美空が勝ち誇ったようにふははと笑う。
戦兎としても甘くなければ嫌というわけでもないから、次はちゃんと甘くしてと注文をつけるだけにする。記憶をなくす前の自分がどういう人間だったかはあいかわらず思い出せないが、白飯と味噌汁を愛する真っ当な日本人だったのだろう。
そんなことを考えながら、豆腐の味噌汁をすすった。
「マスターさ、コーヒーもパスタもくそ不味いけど、味噌汁だけはうまいよね」
「褒めるんならストレートに褒めろよ」
わざとらしく肩を落としてみせるが、笑う顔はそれなりにうれしそうだ。
「なんでここ定食屋にしなかったの」
「そりゃおまえ……オシャレじゃねえだろ?」
たしかに、想像はつかない。でも客が寄りつかないコーヒーよりはずっといいと思う。
「むりだよ、だってお父さんだよ?」
「なにその理由」
「さすが俺の娘、わかってる~!」
「いいのかよ!」
美空もぜったいナシ!と首を振り、戦兎の「定食屋ナシタ」案は多数決で却下された。
「……おーい、いつまで寝てる気だ?」
「!」
戦兎は目を開けた。
クッションなどない。体の下にはタイル舗装の地面。吹き抜ける寒風に身を震わせながら顔を上げれば、さっきまでぱらついていた雨が雪に変わっている。その割に体がほとんど濡れていないのは、上に屋根があるからだ。
そして、目の前にいるのは優しいあの男ではなく。
「のんきに寝てる時間なんてあるのか?」
変声器を通した耳障りな声と、表情の見えない仮面。
「俺……」
こうなる前の経緯を冷静に思い出そうとする。
既知のボトルを一通り使い尽くし、ブラッドスタークが持ってきた新しいボトルを試しはじめたが制御が難しく、相手が攻撃を避けたときに地面に叩きつけられて……変身解除した記憶はないが、そのタイミングで気を失ってしまったのだろう。
しゃがんで覗き込んでいたスタークが、立ち上がって庇の向こうの白い空を見上げる。
「今日、傘持ってきてねえな……」
傘……雨。
叩きつける雨の中、出会いの記憶がフラッシュバックする。少し前まで、それは希望と始まりの記憶だった。今は、裏切りと絶望の記憶だ。
雪が舞い上がる。風が強くなってきたようだ。
手や顔の傷に冷たい風が沁みる。口の中も切ったらしく、血の味がする。横になっていても体が冷えていくだけだが、指を動かすだけで全身に痛みが走る。
そんな戦兎に顔すら向けず、スタークは鼻で笑ってみせた。
「今日はもうおねむか? あったかいおうちに帰ってごはんでも食べるか?」
「くそ……っ」
その「あたたかい家」を壊したのはいったいだれだ。挑発だとわかっていても、受け流すほどの余裕はない。戦兎はタイルの地面を拳で殴りつけ、きしむ体を起こそうとした。頭痛と空腹のせいで眩暈がする。
「……っ」
考えれば考えるほどわからなくなる。
この男が、敵なのか味方なのか。なんのために、戦兎を……いや、ビルドを強化しようとしているのか。
小雨の中で倒れたはずの戦兎を屋根の下まで引きずってきて転がしたのも、親切心でないことくらいはわかっている。全ては彼自身の目的のため。
だがそれを問うている場合ではない。自分には時間がない。
戦兎はボトルを握りしめ、よろめきながらも立ち上がった。
「そうこなくっちゃな」
愉快そうに呟いてこちらに向きなおる男を、正面から睨みつけて。
「……変身!」
もう戻らない時間と、決別して。
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ブラッドスタークはちゃんと戦兎くんの顔がきれいに見えるアングルで転がしておきました。お気遣いの人なので。