【SS】飛羽真と賢人(セイバー)

SSマラソン④、ワードパレット2本。なんにもせず仲よくしてるだけの二人。


飛羽真と賢人。序盤かな…雰囲気でお願いします。
17.【灰被り】「魔法」「ガラス」「手を取る」

 *

店の奥にある古めかしい時計が、時を知らせる。
一,二,三……数えるともなしに心の中で数え上げ、十二回鳴ったところで、ふっと息をつく。最後の鐘の余韻を味わいながら、本を閉じた。
「さて……と」
周りに積み上げた本を見渡し、もう一度息を吐き出す。
自分の本を片づけて、子供たちを迎え入れる準備をしなくては。
本の山を倒さないように気をつけて立ち上がった。窓を見上げれば、冴え冴えとした月がこちらを見下ろしている。
その月の前を、なにか黒い影がよぎった。大きな布のような、まるで空飛ぶ絨毯のような……。
「!」
扉が開いて、見慣れた長身が入ってきた。
賢人は飛羽真が積み上げた本を見て、軽く首をかしげてみせる。
「パーティーは終わったかな」
彼らしい物言いに笑いそうになりながら、それでもこんな時間に来るのは非常識だばかりに、わざと機嫌の悪そうな表情を作った。
「十二時を過ぎたから、魔法は解けたね」
空飛ぶ絨毯を操る相手に、時間制限はないとわかっていたが。
「ガラスの靴は消えないだろう?」
コートの裾を払って片ひざをついた賢人は、恭しく飛羽真の手を取る。
「王子さまが来るには早すぎるよ」
胸を張ったまま見下ろしてやると、相手もしおらしい表情になって……すぐに口角を上げた。
「明日の朝、出直そうか?」
「王子ならそんな意地悪は言わないね」
帽子を本の塔の上に置いて身をかがめ、王子の頬に口づける。
「そのとおり」
王子改め不埒な侵入者は、飛羽真の頭を抱き寄せて囁いた。
「それで、お姫さまはどうする?」
「残念……実はここに姫はいないんだ」
飛羽真も床にひざをつき、抱き返して彼に体重を預ける。当然の流れで二人は床に倒れ込むことになった。
押し倒された賢人はついに笑い出す。
「よかった……ピュアな姫じゃなくて」
慎ましやかな月が窓枠から消えていくまで、青年たちは魔法以上の戯れに耽った。

 *

本は朝あわてて二人で片づけました。