【SS】ジョージと優次郎(リバイス)

ジョー次郎。
二人が初めて取引をする話。またはジョージが優次郎をロックオンする話。ギャグかもしれない。
うちの二人はずっとこんな感じですたぶん…

 *

包括的なカテゴリからひとつだけ選べというのはナンセンスだと、コレクションケースに並んだフィギュアを頭に浮かべながら思う。
受注生産の高級品にもカプセルトイにも、それぞれに評価軸があるのだ。単純に一律で順位をつけられるものではない。
「……それで言い訳になると本気で思っているのか」
司令官が苛立たしげにため息をつく。
狩崎はいちおう背筋を伸ばして彼の前に立ち、精いっぱい殊勝な顔でおとなしく話を聞いてやっていた。口元は見るからに不満そうに曲がり、片手はポケットの中のミニトイをいじっているとしても。
「職場内での交際が禁止とは言わない。だが風紀を乱すような行為は別だ。場合によっては懲罰対象になりうる」
「……………」
いい歳をして学生よろしく立たされている理由が、ひどくプライベートな事柄によるのも、狩崎の態度を反抗的なものにしていた。
「ここに来てからいったい何人と関係を持ったかは知らないが……」
そんなもの、自分だって知らない。
後腐れのないよう、特定の職員を贔屓にしていないだけだ。フィギュアだってひとつだけではもの足りないし、棚に並んでいる他のライダーにも悪いと感じるから日替わりで遊んでいる、それと同じではないか。自分の業務に支障をきたさないよう気をつけてはいるし(相手は自己責任だ)、24時間365日さかっているわけでもない。
「一人で頭脳労働を続けているとパフォーマンスが下がるんですよ」
「なんのためにトレーニングマシンの持ち込みを許可しているんだ」
「あれは日課で、気晴らしじゃない」
「気晴らしに不特定多数を巻き込むな」
実に不毛なやりとりだった。
そもそも、組織の権威と信用を揺るがす不適切な噂が広まっているという、実に曖昧な罪状で責められていることが納得いかない。
「多くの同僚と親交を深めることのなにが悪いんです?」
ただでさえ険しい顔がさらに鬼瓦っぽさを増し、こんな状況なのに危うく噴き出しそうになる。だが司令官は笑う隙も与える気はないようだった。
「その方法で親交を深める相手は、一人以下にしておけ」
「……!」
口から飛び出しそうになった罵声をなんとか飲み込んだが、不満が顔に出るのは止められない。
「じゃあ、そちらで人員を用意してください。地上勤務がほとんどなくてシフトの都合が効いて、恋愛なんていう面倒事に無関心で、タフで持久力があって体脂肪率10%程度の……」
腹立ちまぎれに指を折って条件を挙げながら、ふと顔を上げて目の前の男を見た。
自分と視線が合う長身、現役の隊員にも負けない広い肩。責任者として無茶な連勤も辞さない体力。個人的感情に流されることもなさそうな……。
「Jesus……」
適当に列挙した条件に見合う人間が実在するとは。
本人は狩崎の眼鏡にかなったとも知らず、鋭く睨みつけてくる。
「冗談を言える立場だと思っているのか」
「No,Sir……」
上の空で答えつつ、改めて彼を凝視した。
現場で最も権力を持つ男、いわばレアリティの高い最強フォーム。永続的にとは保証できないものの、当面の「お気に入り」にこれ以上ふさわしいものはない。
インスタントに調達できる手軽なオモチャたちも悪くはなかったが、これはこれで手に入れる価値がある。
そろそろ見飽きたと思っていた四角い顔も、そのつもりで見れば決して悪くない。その顔を快楽に歪ませ、逞しい肉体を征服することを考えるだけで身が疼く。しかも手を伸ばせばすぐ届く距離に、常にあるのだ。
興奮に乾いた唇を舌で湿して、距離をとっていた相手に歩み寄った。
「おっしゃるとおり慎むことにしますよ、若林司令官」
心を入れ替えた笑顔を作り、彼の両肩に手を置いた。ぞんざいにはねのけられたが、厚い生地の上からでもわかる筋肉に心躍る。これまでも会話のついでに触れることは何度かあって、無意識のうちにその形状は認識していた。
「あなたが協力してくださるなら、もう『他の』隊員には目もくれないと約束します」
「なに……」
ほんの数秒、狩崎の言葉を理解できないという顔をしていた若林だが、やがて眉間の皺がいっそう深くなった。
「貴様……俺を脅す気か」
顔も声も平静を装ってはいるが、人称が変わっている。
その指揮官らしからぬ素顔をさらに暴いてやりたい。ガードの硬い制服ごと剥ぎ取って、自分好みにカスタマイズしてやったら、しばらく他の相手はいらないだろう。
「まさか! 私はスカイベースの風紀維持に協力し、あなたは私のパフォーマンス向上に協力する、フェニックスの技術力と地位はさらに磐石たるものとなる。Win-Winというやつですよ」
もう一度肩に手を置き、胸にかけて撫で下ろした。嫌そうな顔は変わらなかったが、今度は振り払われなかった。
「……狩崎博士の血と頭脳を継いでいなければ、とっくに追い出していた」
若林はそう呻くなり、狩崎のあごを大きな手で掴んだ。長い指が肌に食い込んでくる感触に期待しかなくて、自然と笑顔になる。彼ならば互いの立場を充分に理解し、合理的な判断をすると確信していた。
「仲良くしましょう、優次郎」
サングラスを頭の上に押し上げ、相手の首を抱き寄せる。挨拶代わりの口づけは、拍子抜けするほどあっさり受け入れられた。絡めとったはずの舌は絡めとられ、思わぬ迎撃であっという間に息が上がる。もちろん悪くない。完全に受け身よりは協力的なほうが楽しいに決まっている。
腰に回された長い腕の力強さも気に入った。
「……kissの巧さはスカイベース内で暫定一位ですよ」
狩崎から高評価を受けた彼は一歩退いて顔を背け、不愉快そうに指の先で口元を拭う。
「その順位はこの先二度と更新されない、ということでいいな」
そうだった。惜しくないといえば嘘になる。
だが他のオモチャを捨てるわけではない。いつか手元に戻ってくることも、あるいは別の場所で別のなにかを手に入れることもあるだろう。倉庫に保管していると割り切って、しばらくはこの体で楽しませてもらえばいい。
「誓約書でも書きましょうか。あなただけを愛すると」
「……そうしてくれるとありがたいな」
真面目くさった顔で返す相手に、今度こそ耐えきれず噴き出した。

 *

平の隊員はソフビで司令官は真骨彫くらいの感じなんだと思います。
どうでもいいけど司令官の服、なんであんなゆとりラインなのかなあ…(不満)