【SS】コウとカナロ「海の底」

久々なんで極短ですが…

フォロワーさんのイラストでSSを書かせていただきました。
カナロ邸でとのことだったので、竜宮城っぽく。


海の底は、静寂に支配された暗闇だと思っていた。
「風の音がするね」
「海流だ」
「星が光ってる」
「光る魚やクラゲも多い」
カナロは愉快そうに笑って、夜光貝のグラスを差し出してきた。コウも笑って、しかしおそるおそるその杯に口をつける。なじんだ味にほっと息をついた。自分が土産に持ってきた酒だ。
「オトちゃんいなくて、さびしくない?」
「今はおまえがいる」
「そっか」
グラスを返して、ベッドに倒れ込む。騎士竜のいない空虚さは、二人とも同じだ。だからこそこうして寄り添っているのだろう。
地上の花嫁を迎え入れるはずだった寝所は、陸のそれとなんら変わらない。薄暗くて、風が吹く音が聞こえ、窓から星が見える。そして、服を着ていなくても寒くない。
シャツを羽織っただけのカナロをちらと見て、つい苦笑した。
「ごめん……」
何がと問う彼の首筋を指さしてそのまま触れる。シャツのあいだから見える日焼けしていない肌に、紅い痕が点々と残っている。
「こんなにつけちゃって……」
夢中になっていた証を星座のようになぞっていくと、カナロは言葉に詰まったときの癖で眉を寄せたが、すっと手を伸べてコウの胸元に押し当てた。
「俺のほうこそ……」
自分では見えないけれど、同じようになっているのは想像がつく。
「襟では隠れないかもな」
そう言いながら同じ場所に再び唇を寄せてくる頭を、笑いながら抱え込んだ。
「じゃあ、消えるまでここにいるよ」
「消えなかったら、ずっといるのか」
そう囁くカナロの息はすでに熱く、コウも思わず相手に乗りかかって勢いのまま唇を重ねる。
他愛もないおしゃべりはそこで終わり、二人は深海よりもさらに深い快楽へと身を沈めていった。
風が鳴る。星が瞬く。
海の底は思っていた以上に情熱的で、退屈しそうにない。


婚活始めた時点でハネムーンハウスは用意済みだと思うんですよ。