【SS】ディケイド(再掲)【R18】

ジオウに通りすがりの破壊者と、なんの因果かディケイド版アギトが登場した記念?ということで。

「平成ライダーの一年間ありがとうございましたSS」発掘シリーズ第三弾、ディケイドの士×ショウイチを引っぱり出してきました。

第一弾:【SS】オーズ(映司とアンク)
第二弾:【SS】ダブル(翔太郎とフィリップ)

前出の文句なしメジャー級2本に対して、いきなりの耳慣れない組み合わせで失礼します、門矢士×芦河ショウイチ
もはやマイナーとも思っていません。マイナーとオンリーは別物ですんで!(堂々)

今思うと、ビルドで私が戦兎の物語として書いていたのは「全てが終わり全てを失った士」の救済だったのかもしれない。無意識に9年間も引きずっていたとすると「おのれディケイド」以外に言うことないわ……

9年前ゆえの拙さは目をつぶってやってください。
長い上にがっつりエロです。いつからこんな丁寧にエロ書かなくなったんだろう(笑)。

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【悪魔の避難所】

 

灯りを消して、天窓から大きな満月を見上げたときだった。
一階から物音が聞こえ、ぎょっとして身を硬くする。
この大きな家には自分以外のだれも住んでいない。その自分がベッドに入ろうとしている今、一階にはだれもいるはずがないのだ。
深呼吸して、気持ちを落ちつける。
もし人間ならば、警察官としての責務を果たすまで。人間でなければ……この身に宿した神の力で、断罪する。それが自分にできることであり、すべきことだった。
意を決して階下を覗き込むと、ひょろ長いシルエットがリビングの中央に立っていた。
「おまえは……!」
彼がのろのろとこちらを見上げるのを待つまでもなく、それがだれかはすぐにわかった。急いで階段を駆け下りる。
前髪のあいだから、どこか虚ろな目がこちらを眺めていた。
「ショウイチ……」
「門矢士!?」
長いコートから水が滴って床に水たまりを作っている。髪は顔に張りついて、土砂降りの中をやってきたようだった。だが今夜は晴天で、明るい月が輝いている。雨に降られたはずがない。
ずぶ濡れの青年は、力なく頭を振って水しぶきを床に散らした。
状況はわからない。だが、彼はたしかに今、ここにいる。
「ちょっと待て、今タオル持ってくる。そこにいろよ!」
洗面所に駆け込んで、バスタオルをつかむ。彼は動かずそこに立っていたが、それでも急いで駆け寄らずにはいられなかった。
高い位置にある頭にタオルをかぶせ、ぐしゃぐしゃと髪をかきまわす。抵抗もせず立ちつくしたままの青年に、不安は大きくなるばかりだ。
「ショウイチ……」
もう一度、名を呼ばれた。濡れた腕が持ち上げられ、ショウイチをおずおずと抱きしめる。
「おい……」
彼の頭がかたむき、やわらかい唇が押し当てられた。
なにをされているのか理解できず、呆然とその口づけを受ける。じわじわと水気がこちらの服にも染み込んでくるが、気にする余裕はなかった。
「あんたは、俺を拒むか?」
「なに言ってるんだよ、そんなわけ……」
青年の重みを感じた。細身とはいえ、この長身だ。支えきれずに床へと倒れこんでしまう。
「おっ、おい!? 士……」
再び口をふさがれる。今度は触れるだけではなく、舌まで入り込んできた。さすがに尋常でないと感じたときにはすでに遅く、ショウイチは士に完全に組み敷かれていた。
細くて頼りない身体を突き飛ばすことは難しくない。だが、できなかった。
「つ、か、さ?」
名前をたしかめるように、一音ずつ囁きかけてみる。真上にあった顔が、くしゃりと歪む。
「……!!」
すすり泣きながら縋りついてくる青年を、ショウイチはただ抱きしめることしかできなかった。

 

ソファに座っている彼は、ずいぶん落ちつきを取りもどしたようだった。
濡れた服を脱がせて自分の服を貸したまではよかったが、手足の長さがちがう。寸足らずのシャツやパンツに、士は苦笑というかたちでようやく笑みを見せた。
そして今、ソファの後ろに立ったショウイチが濡れた髪にドライヤーを当てるのを、黙って受けている。
「よし、だいたい乾いたな」
ドライヤーを止めて、ふわふわになった髪をかきまわすと、彼はくすりと笑った。こちらを見上げてくる目に、もう涙はない。
「髪、切ったんだな」
他愛ない世間話に少し安心して、笑いながら答える。
「曲がりなりにも警官だからな」
こんな夜遅くにコーヒーもないだろうと思い、ミルクを沸かす。カップを受け取った彼の表情から判断すると、それはまちがっていなかったようだ。
自分もホットミルクを飲みながら、ショウイチは士の横に腰を下ろした。
「八代刑事は? 元気でやってるか?」
「ああ、元気すぎて困るくらいだ」
世間話はまだつづく。本題に切り込みたいと思いながら、二人とも足踏みをしている状態だった。
「でも前よりは少し丸くなった。少なくとも、俺に無茶な命令はしなくなったよ」
猫のように舌先でミルクを舐めている士は、彼女の姿を思い出したのだろう、くすくすと笑っている。
「いっしょに暮らさないのか」
唐突な質問に驚き、だが若者らしい発想だと頬をゆるませる。
「俺たちはそういう関係じゃない。……今はまだな。彼女が仕事以外のことを考えられるようになるまで待つさ」
「そろそろ四十だろ、あんた。そんな余裕あるのかよ」
二十歳そこそこの青年は、呆れたように首をかしげた。
たしかに、若く美しい彼女と釣り合いがとれないのはよくわかっていた。それでなくても、こちらは巡査部長、向こうは警部だ。対外的にも彼女がこの自分をそう見てくれる可能性はあまり高くない。
だがたとえ彼女が他の相手を伴侶に選んだとしても、二人の信頼関係は損なわれないだろう。それだけは信じられた。
「人のことより自分のことを考えろよ。おまえこそ、あの子はどうした」
憎まれ口を叩いていた、仲のよさそうな女の子がいたはずだ。自分と八代よりは発展しそうな気配だと、ショウイチは思っていた。
ところが、士はとたんに黙り込んだ。照れるでも拗ねるでもなく、苦しそうな顔をしてうつむいてしまう。
「……………」
ショウイチは空になったマグカップをそっと奪い取り、立ち上がる。
「……二階に行け。ベッドを貸してやる」
「あんたは?」
「ここで寝るかな」
そう答えて見下ろせば、縋るような目をした青年がいた。自信たっぷりに笑みを浮かべていた彼からは想像もつかない、脆弱で幼い姿だった。
「ああ、わかったよ、そばにいてやるから。先に上がってろ」
士はほっとした表情を隠そうともせず、乾いた髪を揺らす。
ショウイチはキッチンに足を向けながら、混乱していた。今ここにいるのは、ほんとうにあの「悪魔」なのだろうか。

 

終わりのない恐怖に怯えて、眠ることも休むこともままならない暮らしていた日々を思えば、一晩くらい寝ずの番をするなど苦でもない。
だがベッドのそばへ椅子を運んできたショウイチを、士は有無を言わさずベッドの中へ引きずり込んだ。
「なんなんだ! 一人で寝られない歳でもないだろ!?」
絡みついてくる長い腕を押しやって、なんとか向かい合って座り込むことで落ちついた。だが士は厚い唇をとがらせて、むくれているように見える。ショウイチはあらためて士の顔を正面から覗き込み、目を合わせようとした。
「いったいどうした? どこであんなに濡れてきた。おまえの世界はどうした。小野寺ユウスケは? この世界にまた異変が起きるのか? おれにできることはあるか? なあ、説明してくれよ、士……」
前髪のあいだから士がちらりとこちらを見た。
「もう一度……呼んでくれ」
「つ……士?」
士は毛布を自分に引き寄せてかぶる。長い手足を縮こまらせるその姿に、ただ逃げつづけていたころの自分を思い出した。
「あんたでよかった……」
その意味を問う代わりに眉を寄せたショウイチに、士は今にも泣きそうな声で語った。
「世界が融合して消えていく。ライダーたちは消される前に俺を消そうとする。だが俺が消えれば世界は救われるのか? 俺がおかしいのか、あいつらが正気じゃなくなってるのか……わけがわからないまま逃げまわって、気がついたらこの世界にいた」
「……………」
晴天の夜にずぶ濡れでやってきたのは、別の世界からやってきたからだ。
あらゆる世界から拒まれつづける悪魔。彼が破壊者だからなのだという。だが目の前にいるのは、ただ怯えているだけの弱々しい青年だった。
彼を安心させるために、目を覗き込んで笑いかけてやる。
「……おれは、おれと八代を救ってくれたおまえを信じることにしたんだ。だから、信じるよ。この世界は、まだ正気だ」
ショウイチがそっと伸ばした手を、彼は縋るようにつかむ。
「……ありがとう」
そのまま強く引かれ、ショウイチは士の胸に倒れ込んでしまった。
「おい、待て……」
なにを言おうとしたのか、すぐにわからなくなった。耳元ですすり泣きが聞こえたから。士はショウイチを抱きしめたまま、その肩に頬を押しつけて泣いていた。
「……………」
かけるべき言葉も見あたらず、ただ彼の背中に腕をまわす。思っていたよりずっと細くて薄い。よく折れなかったものだ。自分など、世界どころか自分の運命にさえひざを折りそうになっていたというのに。
「っ!」
頬に柔らかい感触を覚えてびくりと身を震わせる。士が唇を押し当てていた。リビングの床に押し倒されて、舌を吸われたことを思い出す。あまりにも驚きすぎて、考えることも避けていたが……
「なあ、おまえ、おれに……」
動揺が伝わったのか、逆に士は感情を隠そうとする。涙を拭き、おそらくは傷ついた顔を見せまいとしている。
「……通りすがりのすることだ。気にするな」
強がっているのが見え見えで、ショウイチは苦笑するしかなかった。
「バカ、それは通りすがりじゃなくて通り魔だ。逮捕するぞ」
士もくすくすと笑い出す。
「八代刑事とは……ほんとうになにもないのか」
「だから『まだ』な。今はフリーってやつだ」
彼は泣き笑いの情けない表情になり、そっぽを向いて鼻をすすった。
「通りすがりの悪魔が入り込む隙はあるか?」
「おれがなんなのか、忘れたわけじゃないだろ」
「……そうだったな」
この身に与えられたのは、神の力。未だに実感はわかないが、そうならば天使も悪魔も自分の僕ということになる。
「天使だろうが悪魔だろうが、受け入れてやるよ」
余裕を見せようと、少しえらそうに言ってやると、相手も以前のようにつんとあごを上げた。
「あんたになら、跪いてもいいかもな」
跪くどころか、頭を下げるそぶりも見せずに、彼は首をかたむけてこちらを見下ろす。涙を拭いたとはいえ、その目はまだ潤んでいた。
「ほら、来いよ……」
ショウイチのかすれ声に促され、士は震える唇を近づけてくる。
その優しさをすでに知っていたから、今度はためらうことはなかった。

 

唇が触れた首筋に鈍い痛みを感じ、痕をつけられたのだと知る。抗議する間もなく、彼は肩に胸に唇の痕を散らしていく。ときには歯を立て、士はショウイチの身体に触れた痕跡を残していった。
そして、しまいには胸の小さな突起まで吸い上げる。
「おい、バカ……っ」
軽く髪を引っぱったが、やめる気配はない。それどころか、片方を舌先で、もう片方を指先でこねくりまわして、同時に責め立てる。そんな場所を弄られたことなどなかったから、無性に気恥ずかしかった。
「や……っ、士ぁ……」
濡れた肌に息がかかり、彼が笑ったのが感じられる。
「いい声で泣くんだな」
「!!」
かっと耳が熱くなる。年下の彼のほうが場慣れている様子なのも気に入らなかったが、自分が翻弄されるままなのもおもしろくない。
「遊んでないで……やるならさっさとやっちまえ……」
「投げやりになるなよ」
覗き込んだ顔が、音を立てて軽い口づけをくれる。甘ったるい恋人同士のようだと感じた瞬間、頭を抱えたくなった。
「年寄りをからかうもんじゃない」
だが士は不遜に目を細め、厚い唇に指を当てただけだった。自分の魅力をよくわかっているのだろう。現に、許したくなっている自分がいる。ショウイチはやけくそで士の小さな頭を抱き寄せ、「焦らすな」と囁いた。
「……了解」
腹をすべっていった大きな手が、下着の中へともぐり込む。長い指が繁みをかきわけて中心へと絡みつき、ショウイチは身を硬くした。
「ちょっとくすぐったい、かな……」
「……っ」
握り込んだそれを、彼はゆっくりとさするように愛撫していく。そんな程度でどうにかなるものかと考える頭とは無関係に、身体は少しずつ熱くなっていた。吸い痕や噛み痕がじんわりと痺れ、正常に呼吸ができなくなっていった。それもこれも、巧みな指のせいだ。
「おまえ……なんでそんなに、器用なんだ……っ」
「さあ……必要だからじゃないか?」
半分上の空で呟かれたその返事に、腹立たしくもおかしくもなったのだが、どこかで納得してもいた。たしかに必要なのかもしれない。彼が、人に縋るために。彼が、正気でいられるために。
ふと目を上げると、士がぼんやりとこちらを見下ろしていた。濡れた唇は無防備にも薄く開いていて、彼が表情を作る余裕もないことを示している。
「なに見てる……」
「あんたの顔。他になにがある?」
にこりともせずそう言いながら、青年は長い指と広い掌で、ショウイチをゆっくりと責めつづける。
「っ……見るなよ……」
顔をそむけて目を閉じたが、注がれる視線を感じるのに変わりはない。目と指で犯されて、ショウイチの理性は少しずつ崩れかけていた。
「ぁは……っ、んぁ……っ」
喘ぎとともに唇から唾液が零れる。みっともないと思うより先に、士の舌がそれをすくい上げ口元を舐めていった。舌はそのまま首筋へと伝い、先ほどつけた痕を辿る。
呆れるほど丹念に、執拗に、士はショウイチを求めていた。気づけば、彼もまた肩で息をしている。
「……ずるいぞ、あんただけ」
苛立たしげに呟いた声も、かすれていて形なしだ。
「なに言って……!?」
ぐいっと肩をつかまれたかと思うと、身体をひっくり返されてうつぶせにベッドに押しつけられていた。首の後ろに荒い息がかかり、背筋が寒くなる。
「待て、まさか……っ」
とっさに士の手を押さえつけようとして、だがすぐにその手を握りしめる。受け入れる、と言ったのだ。あらゆる世界から拒絶されつづけた彼が、この自分を求めているのに、ここで突き放すことなどできない。
ショウイチは両腕に顔をうずめたままで叫んだ。
「くそっ、少しは手加減しろよ!?」
「ああ、そうするさ」
裸の腰を後ろから抱き上げられて、勃ち上がっていたものが一気に萎えそうなくらいの恐怖に襲われた。
「つか……!」
息を止めたショウイチの腿のあいだに、まだ首をもたげていないそれが押し込まれる。
「……え!?」
ショウイチの内股にこすりつけられる士自身は、すぐに熱を帯びはじめた。
背後から降ってくる喘ぎも、後ろから突き上げられる動きも、そして腿に押しつけられる彼の欲望も、すべてが本物なのに。恐れていた苦痛はなにひとつなかった。士を拒んでしまうこともなかった。
それはこの無愛想な青年なりの気遣いか、あるいは「必要だから」と彼が言った処世術なのかもしれない。
「は……っ、は……」
腰を掴まれているとはいえ士は士で勝手に動いているだけにすぎないのだが、気持ちが伝染しているのか、足のあいだでそれが硬くなっていくのに合わせて妙な昂奮を覚えてしまう。
「……!」
角度をつけてきた士の熱が、放置されていたショウイチのそれを裏側からこすり上げた。思わずびくりと跳ねた腰を押さえつけ、士はくすくすと笑う。
「挿れなくても……充分やらしいぜ、あんた……」
「だ、黙っ……んぁあ……っ」
ベッドの隅に追いやられていた枕を手探りで掴まえてしがみつく。
もう、自分や士がどんな姿でなにをしているかなど、考えが至らなかった。こんな擬似的な行為で満たされるのかという疑問もわかなかった。ただ士が求めるままに、ショウイチも士を求めた。

 

疲れていたのだろう。互いに二回ほど抜いたあとで、青年はあっさりと眠りについた。
雨ではなく汗で張りついた髪を梳いて、頬から剥がしてやる。
目を開けているときにはあれほど不遜なのに、寝顔はずいぶんと幼い。
天窓から、もう月は見えなかった。だが夜の静けさは変わらない。崩壊も消滅もその兆しを見せていない。
この世界は正気だ。無力な悪魔のささやかな眠りを許すくらいには。
「俺だけじゃない……だれも、おまえを拒まないよ……」
ショウイチは、士の頬を触れる程度に撫でた。

 

(by NICKEL, Sep, 2009)