部活動の先(ハイキュー感想+α)
一言多いやつだなあ。
それがなんとなくの印象。さすがに三年の俺に向けられることはなかったけど、端から見てて「言うなあ」とは思ってた。
でも今から思うと、あいつなりのコミュニケーションだったんだろう。普段は話しかけられてもめんどくさそうな顔するくせに、周りをからかってるときは楽しそうだったもんなあ。
「その顔で外見てたら通報されますよ」
で、今は俺にも遠慮なく、その一言を乗せてくれる。心を開いてもらったと思っていいのか。
我に返って隣を見ると、眼鏡の後輩がとくに表情もなく正面を向いてカフェラテを飲んでいた。通りに向いたカウンター席だから、俺たちの視線が交わることはない。
「え、どんな顔?」
「ヒゲの怖いお兄さんが、しまりのない顔でにやにや浴衣の女の子を品定めしてる系の」
通りには確かに浴衣姿の女子が多い。七夕の大きな祭があるから。若者や観光客がたくさん歩いてて、いつもよりさらに人が増えている。
「あっ、いや、そういうつもりじゃ……」
そういうつもりではなくても結果的にそう見えてしまう、なんてのはよくあることで、毎度弁解するのも一苦労だ。
「っていうか、そういう席なんだから仕方ないじゃないか! べつに浴衣見てたわけじゃないよ! あとヒゲ怖くないし!」
月島は眼鏡の端からちらりとこっちを見て、笑った。なんだかバカにしたみたいな、上から目線の。
「じゃあ、なんでにやけてるんですか」
今も同じ顔をしてるらしい俺を横目に見た後輩は、あいかわらずおもしろそうに訊いてくる。
「そんなにかな……」
まあ、あえて心当たりを言うなら。
「仕事休みで、仙台来れて、これから祭も行くし、うまいもん食って酒も飲む予定だし」
それ全部、一人じゃなくて二人でって思ったら顔もゆるむじゃないか……というのはさすがに飲み込んだけど。こうしてコーヒーショップで待ち合わせて、目的地に行く前に二人でゆるゆる時間をつぶすなんていうのも、けっこう楽しい。地元にはコーヒーショップ自体ないから、という理由は置いといて。
俺の心知らずで、月島はおもしろそうに返してきた。
「浴衣の女の子、いっぱいいるし?」
「だから浴衣関係ないから!」
普通なら、先輩的には気を悪くするところなんだろう。西谷あたりが見てたら怒られそうだ。俺が。でも本人があんまり楽しそうだから、怒る気も起きない。
「月島は、去年行った?」
カノジョがいなかったわけじゃない、っていう話は聞いてたから、たぶんあたりまえに二人で行ったりしてたんだろうなと思ったのだけど。
「いえ……今年が初めてです。わざわざ人ごみの中に行く気もしなかったんで」
「あ、そうなの?」
言われてみれば、人がたくさんいて騒がしい場所はあんまり好きじゃなさそうだ。それは悪いことしたな、と言いかけたけど、正面の通りを向いたままの月島が口を開いたから遠慮する。
「今年は……東峰さんが行きたいって言うから」
「お、おう」
月島なりの、不器用な言い回し。その気持ちをこっちに向けられてると思えば、怒るどころか逆にうれしくなる。
「はしゃぎすぎて熱中症とかならないでくださいよ? 置いて帰りますからね」
……ほんっと、一言多いやつだなあ。